NPO法人日本ホームスクール支援協会理事、教育事業「みらいの学校」代表の北本の個人ブログ

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壮絶な人生の歌人・鳥居さんの歌集『キリンの子』を読んで

 

歌人・鳥居さんは壮絶な人生を送っている。

 

「壮絶な人生」とひとことで括ってしまうことを、ためらうほどの。

 

 

彼女の「壮絶な人生」は母親の自殺から始まっているように思う。

 

 

小学生の時に母親が目の前で自殺をする。

 

うつ病だった母親が服毒自殺を図り、そのぐったりとした母のことを誰にも言えずに、救急車も呼べずに、彼女は母の死体と数日間、一緒に過ごしていた。

 

くちあけてごはんいれてものみこまず
死を知らぬ子は死にゆくひとに

 

ぐったりとしているだけのように、彼女には見えたのかもしれない。

何か食べさせなくてはと思ったのかもしれない。

 

その情景が酷く哀しい。

 

 

母親が死に、彼女は児童養護施設に引き取られるが、
そこで壮絶ないじめに遭う。

 

理由なく殴られている理由なく
トイレの床は固く冷たい

 

 

小学校も中学校も、ろくに通えない状態だったという。

 

施設に置いてある新聞や本で、文字を覚えたのだとか。

 

慰めに「勉強など」と人は言う 
その勉強がしたかったのです

 

 

 

母親の自殺、養護施設でのいじめ、友人の自殺、ホームレス生活、自分自身の心の病との戦い。

 

凡そ人が経験しない経験を彼女は彼女ひとりの人生で経験している。

 

たった31文字だけで綴られているその表現はあまりにもリアルで、恐ろしいほど読み手に疑似体験させる。

 

たった31文字なのに。
たった31文字だからか。

 

イメージされた情景がいつまでも脳裏にこびりついて離れない。

 

 

中でも、「紺の制服」は衝撃的だ。

 

友人の自殺を連続で詠んでいる。

 

急行の軋み過ぎゆき友だちは
手品のように消えてしまえり

 

遮断機が上がれば既に友はなく
見れば遠くに散った制服

 

 

 

 

 

彼女が失った人、失った時間、失った愛、失った心

 

失ったはずのものたちが、生き生きと生きている。

 

そんな歌集だという印象を受けた。

 

 

 

ちなみに、歌集の中は哀しい歌ばかりではない。

 

私が「なんて暖かな情景だろうか」と心を打たれた歌を最後にご紹介。

 

コロッケがこんがり揚がる夕暮れの
母に呼ばれるまでのうたた寝

 

 

彼女の思い出の中に幸せな時間があったことを、
また壮絶な人生を歩みながらも彼女に幸せを表現できる感性があることを、
とても嬉しく感じた歌だった。

 

 

キリンの子 鳥居歌集

キリンの子 鳥居歌集